花道

以前、私はカナダ人の仕事仲間に日本の文化「花道(flower road)」について説明を試みたことがあります。しかし、そのカナダ人には理解しがたいものでした。

そこで日本語の「花道を与える(最後に立派な形で送り出す)」という文化は英語圏の人々の間には存在しないことを実感しました。花道は日本文化に特有の「体面を保って去る美学」に根差した概念だと思います。

「花道を与える」は歌舞伎の「花道(はなみち)」から来た言葉で、「最後の見せ場」や「晴れの舞台」を用意するという意味合いで使われる表現です。

欧米ではそれに近い「去る人を称える」文化は勿論ありますが、「意図的に花を持たせる」ような美的儀式は見られません。

先日、トランプ大統領が石破首相に「トランプ関税合意を花道にして与えた」という日本の報道があり、いろいろ調べてみましたが、トランプ大統領が「花道(flower road)」という表現を使って発言したという記録はなく、原文ではこう発言しています。


「I just signed the largest trade deal in history with Japan」

(歴史上最大級の貿易協定を日本と調印した)

「Japan will invest, at my direction, $550 billion. This deal will create hundreds of thousands of Jobs —There has never been anything like it」

(日本は私の指示のもとで、5500億ドルの投資をします。この取引きは何十万もの雇用を生み出すでしょう。このようなことはこれまで一度もありませんでした)

この原文のどこにも「flower road(花道)」という言葉や比喩は一切使われておらず、トランプ大統領が石破首相に「花道を与えた」という文脈は、英語原文のどこにも見当たりませんでした。

どうも日本の一部メディアは、自民党の参院選敗退・党内の退陣圧力と関税合意のタイミングを重ね、「関税協議合意=>石破首相の花道」という文脈で報じたようです。「花道にして与えた」という表現は、トランプ氏の発言ではなく、日本国内のメディアの報道であったのが実態だと思います。

去る人を称えるという英語表現としてはこれらがあります。

send (someone) off with honor / dignity (名誉をもって送りだす)

graceful exit / departure(上品な辞任・退場)

final curtain call (人生最後の見せ場)

これらは日本語の「花道」に近いかもしれません。しかし、これらには”意図的に成果を美化する”という意図はありません。

英語表現として「去る人を称える」文化はありますが、英語圏には日本の様に「意図的に花を持たせる」文化は存在しないと理解するのが正しいと思います。

欧米では成果や実績の評価に焦点があり、形式的・儀礼的な「花道」を作ることはせず、個人の選択や意志に委ねることが多いのだと思います。

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